スミレ洋裁クラブ

魔女、妖怪のドレスお仕立ていたします。

モスリンの紅色

今年もお雛様が近づいてきた。いくつになってもお雛様の日が来ると胸がたかなる。

いつまで胸を高鳴らせているってか? それは、わたしのかってざます。

団塊の世代の私たちでも、裕福な家には大きな七段飾りや五段飾りがかざられていた。

私のまわりは、戦後の焼け残りの長屋暮らし。そんな立派なもの買うこともできないし

飾るところもない。そんなとき母は、とっておきの赤いモスリン長襦袢の袖をほどいて、毛氈にみたて、日曜大工で父が作ったリンゴ箱の半分くらいの三段の棚に毛氈がわりにひいた。一番上には、大阪城で買ってもらった一番大きなこけし人形。その下に、夜店の輪投げであてた本を読んでいる瀬戸物の猫。貝殻でできた亀とカエル。母のつくったちらし寿司、かわいいヒシモチ。そして、花瓶にさした桃の花。まるで漫画のような一コマがよみがえる。あーあ、あのころ確かにあったわたしの幸せな幼いころ。父も母も亡くなったけれど、あの大阪城こけしは今もパソコンの横でほほえんでいる。